「契約期間がまだ残っているけど、もう辞めたい」——契約社員や派遣社員として働いている方から、このような相談は少なくありません。正社員であれば民法627条により2週間で退職できますが、有期雇用契約の場合は少し事情が異なります。
この記事では、有期雇用契約の途中退職に関する法律の規定と、実際に辞められるケースを具体的に解説します。
有期雇用契約とは
有期雇用契約とは、雇用期間があらかじめ定められている労働契約のことです。「契約期間:2025年4月1日~2026年3月31日」のように、開始日と終了日が明記されています。
有期雇用契約で働く代表的な雇用形態は以下の通りです。
- 契約社員:企業と直接、期間を定めて雇用契約を結ぶ
- 派遣社員:派遣会社と有期雇用契約を結び、派遣先で就業する
- 期間限定のパート・アルバイト:繁忙期のみなど、期間を定めて雇用される
無期雇用との違い:期間の定めのない雇用(無期雇用)であれば、民法627条により退職届から2週間で退職できます。しかし、有期雇用の場合は民法627条ではなく、民法628条が適用されます。
民法628条——やむを得ない事由による即日退職
有期雇用契約の途中退職について定めているのが民法628条です。
民法第628条:当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
この条文のポイントは2つです。
- やむを得ない事由があれば即日退職が可能
- 退職の原因が自分の過失による場合は損害賠償の可能性がある
「やむを得ない事由」の具体例
「やむを得ない事由」は法律上明確に列挙されていませんが、一般的に以下のようなケースが該当すると考えられています。
やむを得ない事由に該当しうるケース
1. パワハラ・セクハラ:上司や同僚からのハラスメントが行われ、就業環境が著しく悪化している場合
2. 賃金の未払い:給料が支払われない、大幅に遅延しているなどの場合
3. 労働条件の相違:契約時に説明された労働条件と実際の条件が著しく異なる場合(労基法15条2項でも即日退職を認めている)
4. 健康上の理由:心身の健康を害し、医師から就業を止められている場合
5. 家族の介護:家族の介護が必要になり、就業の継続が困難になった場合
労働基準法附則137条——1年経過後の退職自由
有期雇用契約でも、特定の条件を満たせばやむを得ない事由がなくても退職できるケースがあります。
労働基準法附則第137条:期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者は、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
つまり、以下の条件を満たせば、1年経過後はいつでも退職できます。
- 契約期間が1年を超える有期雇用契約であること
- 契約の初日から1年が経過していること
- 一定の事業の完了に必要な期間を定めた契約でないこと
具体的な適用例
- 2年契約の契約社員:契約開始から1年経過後はいつでも退職可能
- 3年契約の専門職:同じく1年経過後に退職可能
- 1年契約の契約社員:この規定は「1年を超える」契約が対象のため、ちょうど1年の契約には適用されない
契約更新を断る権利
有期雇用契約の期間が満了した際に、更新を断ることは労働者の自由です。これは「途中退職」ではなく「契約期間の満了」であり、民法628条の問題は生じません。
雇い止めと更新拒否の違い
- 雇い止め(使用者側):会社が契約更新をしないこと。一定の条件下では労働契約法19条により無効になることがある
- 更新拒否(労働者側):労働者が契約更新を断ること。労働者の自由であり、制限はない
注意:会社から「更新しないなら損害賠償を請求する」「更新を断ることはできない」と言われた場合は、それは不当な要求です。労働基準監督署や弁護士に相談してください。
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途中退職の損害賠償リスク
民法628条の後段には「その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う」とあります。この規定について正確に理解しておきましょう。
損害賠償が認められるケースは極めて稀
理論上は損害賠償のリスクがありますが、実際に認められるケースは極めて稀です。その理由は以下の通りです。
- 会社側が具体的な損害額を立証する必要がある
- 退職と損害の因果関係を証明する必要がある
- 労働者の退職の自由は憲法22条(職業選択の自由)でも保障されている
- 労働基準法16条により、あらかじめ損害賠償額を定めた契約は無効
「辞めたら○○万円の損害賠償を払え」という契約条項があったとしても、労基法16条により無効です。
リスクを下げるためにできること
- できるだけ早めに退職の意思を伝える
- 引き継ぎ資料を作成しておく
- パワハラや賃金未払いなど「やむを得ない事由」がある場合は証拠を残す
- 不安な場合は弁護士に相談する
労基法15条2項——労働条件が違う場合の即日退職
有期雇用に限らず、労働基準法15条2項は重要な規定です。
労基法15条2項:明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
「求人票に書いてあった条件と実際が違う」「契約書の内容と実態が異なる」という場合は、有期雇用であっても即日退職が可能です。契約期間の途中であるかどうかは関係ありません。
まとめ——有期雇用でも辞められるケースは多い
有期雇用契約の途中退職は、以下のケースで認められます。
- やむを得ない事由がある場合(民法628条):パワハラ、賃金未払い、健康上の理由など
- 1年を超える契約で1年経過後(労基法附則137条):事由不要でいつでも退職可能
- 労働条件が契約と異なる場合(労基法15条2項):即日退職が可能
- 契約期間の満了時:更新を断ることは労働者の自由
「有期雇用だから辞められない」と諦める必要はありません。退職届の送達に困った場合は、退職代行サービスを利用してメール・電話通知・郵送で届けることも可能です。損害賠償や法的な問題が心配な場合は、弁護士への相談をおすすめします。
なお、この記事は一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の法律相談ではありません。具体的な事案については弁護士や労働基準監督署にご相談ください。
よくある質問
契約期間の途中でも退職できますか?
民法628条により、やむを得ない事由がある場合は契約期間の途中でも即日退職が可能です。パワハラ、賃金未払い、労働条件の相違、健康上の理由などが該当します。また、1年を超える有期雇用契約の場合は、契約初日から1年経過後であればいつでも退職できます(労基法附則137条)。
有期雇用の途中退職で損害賠償を請求されることはありますか?
やむを得ない事由がない場合、理論上は損害賠償のリスクがあります(民法628条後段)。ただし、実際に損害賠償が認められるケースは極めて稀であり、会社側が具体的な損害と因果関係を立証する必要があります。不安な場合は弁護士にご相談ください。
契約更新を断ることはできますか?
はい。契約期間の満了時に更新を断ることは労働者の自由です。これは途中退職ではなく契約期間の満了による終了であり、民法628条の問題は生じません。更新を強要された場合は労働基準監督署に相談できます。
