「辞めたら損害賠償を請求するからな!」——退職を申し出た時にこう脅された経験、ありませんか?

結論から言うと、脅すだけ脅して実際に訴えた会社は極めて稀です。そして勇気を出して(?)本当に訴えた会社は、だいたい負けています。会社側の弁護士が一番気の毒かもしれません。

この記事では、退職者に損害賠償を請求した会社の裁判例をユーモアを交えて紹介します。「辞めたら訴える」がいかに空虚な脅し文句であるか、判例の傾向が証明しています。

そもそもなぜ会社は「訴える」と言うのか

退職を申し出た労働者に「損害賠償を請求する」と言う会社の目的は、ほぼ100%「引き止め」です。法的に正当な請求ができると思って言っているわけではなく、怖がらせて退職を思いとどまらせたいだけです。

考えてみてください。本当に損害賠償請求に自信があるなら、わざわざ予告する必要はありません。黙って弁護士に相談すればいいのです。「訴えるぞ!」と叫ぶのは、実際には訴えるつもりがない人の常套句です。映画で「撃つぞ!」と叫ぶ人ほど撃たないのと同じ原理かもしれません。

ポイント:退職の自由は民法627条で保障されています。適法に退職すること自体が損害賠償の対象になることはありません。「退職で損害賠償と脅された時の対処法」も併せてご覧ください。

判例1:急な退職で「売上が下がった」と訴えた会社——因果関係が認められず敗訴

事案の概要

営業職の労働者が退職した後、担当していた取引先との売上が減少。会社が「退職のせいで売上が下がった」として損害賠償を請求したケース。

裁判例の傾向として、このような請求はほぼ認められません。理由はシンプルです。「退職」と「売上減少」の因果関係の立証が極めて困難だからです。

売上が下がった原因は、市場環境の変化かもしれませんし、後任の営業力不足かもしれませんし、そもそも商品やサービスに魅力がなかっただけかもしれません。「あの人が辞めたから売上が下がった」と主張するのは、「あの人がいないと回らない会社です」と自白しているようなものです。そんな重要な人材を引き止められなかった経営の問題ではないでしょうか。

この判例から学べること:退職と損害の因果関係の立証は会社側の責任です。「なんとなく損した気がする」では裁判所は動きません。具体的な因果関係と損害額を証明する必要があり、通常の退職でこれをクリアすることは極めて困難です。

判例2:「研修費用を返せ」と訴えた会社——労基法16条に阻まれる

事案の概要

入社時に高額な研修を受けさせた会社が、短期間で退職した労働者に対して研修費用の返還を請求。「〇年以内に退職した場合は研修費用を全額返還する」という誓約書に署名させていたケース。

「研修を受けさせてやったんだから、辞めるなら金を返せ」——一見もっともらしく聞こえます。しかし、裁判例の傾向として、このような研修費用の返還請求は「賠償予定の禁止」(労働基準法16条)に抵触するとして認められないケースが多くあります。

労基法16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。「辞めたら研修費用返還」は、まさに退職(=労働契約の不履行)に対する違約金に該当する可能性が高いのです。

ただし例外もあります。業務と直接関係のない自己啓発的な研修や、留学費用の貸付制度として合理的に設計されている場合は、返還が認められることもあります。会社が業務命令で受けさせた研修の費用を返せというのは、「仕事をさせてやったんだから給料を返せ」と言っているのと大差ありません

この判例から学べること:「辞めたら研修費用返還」という誓約書は、労基法16条に違反する可能性が高いです。署名してしまったとしても、必ずしも有効とは限りません。不安な場合は弁護士に相談しましょう。

判例3:「引き継ぎをしなかった」と訴えた会社——認められても微々たる金額

事案の概要

労働者が退職届を提出した後、一切の引き継ぎを行わずに退職。会社が引き継ぎ不足による業務への支障を理由に損害賠償を請求したケース。

引き継ぎなしの退職で損害賠償が認められる可能性はゼロではありません。ここが他の判例と少し違うところです。

裁判例の傾向として、退職自体は自由ですが、信義則上の義務として合理的な範囲での引き継ぎが求められることはあります。ただし、仮に認められたとしても、その金額は会社が主張する「損害額」と比べて大幅に減額されるのが通常です。

会社が「引き継ぎ不足で1,000万円の損害が出た」と主張しても、裁判所が認める金額はせいぜい数十万円程度——ということも珍しくありません。「1,000万円請求して弁護士費用と時間をかけた結果、30万円の賠償が認められました」では、会社は大赤字です。

この判例から学べること:引き継ぎは社会的マナーとして行うことが望ましいですが、引き継ぎをしなかったからといって高額な損害賠償が認められることはまずありません。とはいえ、可能な範囲で引き継ぎ書類を作成しておくと、トラブル防止になります。

判例4:有期雇用の途中退職で訴えた会社——「やむを得ない事由」で労働者勝訴

事案の概要

有期雇用契約(契約社員等)の期間途中で退職した労働者に対し、会社が損害賠償を請求。しかし、職場のハラスメントや労働条件の相違など「やむを得ない事由」が認められ、労働者側が勝訴したケース。

有期雇用の場合、民法627条の「2週間ルール」ではなく民法628条が適用されます。原則として契約期間中の退職にはやむを得ない事由が必要です。会社側としては「期間途中で辞めるのは契約違反だ!」と主張できる余地がありそうに見えます。

しかし、裁判例の傾向として、パワハラ・セクハラ・労働条件の相違・賃金未払いなど、会社側に問題がある場合は「やむを得ない事由」が認められ、労働者の途中退職は正当化されます。そして会社側に問題があるケースでは、逆に会社が損害賠償を支払う羽目になることも。

「辞めたら訴える」と脅した結果、自分が訴えられて負ける——これ以上のブーメランはなかなかありません。

この判例から学べること:有期雇用でも、会社側に問題がある場合は途中退職が認められます。会社の違法行為が退職原因の場合、損害賠償を請求されるのは会社の方です。このような法的判断が必要なケースでは弁護士に相談することをおすすめします。

判例5:退職代行を使ったことを理由に訴えた会社——論外の結末

事案の概要

退職代行サービスを利用して退職届を提出した労働者に対し、「退職代行を使うとは何事か」「直接言うべきだ」として会社が損害賠償を検討したケース。

退職届の届け方について、法律は特定の方法を要求していません。手渡しでも、郵送でも、メールでも、退職代行サービス経由でも、届きさえすれば法的に有効です。

「退職代行を使ったこと」自体が損害賠償の理由になるかと言えば、なりません。それは「郵送で退職届を送ったから損害賠償だ」と言っているのと同じレベルの主張です。届け方が気に入らないという感情の問題を、法律の問題にすり替えることはできません。

裁判例の傾向として、退職届の届け方ではなく、退職届が届いたかどうかが法的に重要です。退職代行サービスを利用して適法に退職届を送達した場合、会社が「退職代行経由だから無効だ」と主張しても認められることはまずありません。

この判例から学べること:退職代行を使うこと自体は全く違法ではなく、損害賠償の理由にもなりません。退職届の届け方は自由であり、届いた事実が重要です。退職代行の合法性について詳しくは「退職代行は違法?」をご覧ください。

「辞めたら訴える」への正しい対処法

ここまでの判例の傾向から見えてくるのは、通常の退職で損害賠償が認められることはほぼないという事実です。では、「辞めたら訴える」と言われた時にどうすればいいのでしょうか。

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ご注意:この記事は一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の法律相談ではありません。損害賠償請求への対応は弁護士の領域です。実際に訴訟を起こされた場合や、具体的な法律問題については必ず弁護士にご相談ください。退職エクスプレスは退職届の送達を代行するサービスであり、法的な交渉や訴訟対応は行いません。

退職エクスプレス編集部

この記事を書いた人

退職エクスプレス編集部|退職代行サービスに関する正確な情報を、法的根拠に基づいてお届けします。退職に悩む全ての方が、安心して次の一歩を踏み出せるようサポートします。

本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律相談ではありません。個別の事案については弁護士や各公的機関にご相談ください。退職エクスプレスは退職届の作成・送付・電話通知による退職意思の伝達を代行するサービスであり、会社との交渉は行いません。

よくある質問

退職したら本当に損害賠償を請求されますか?

脅し文句として使われることは多いですが、実際に訴訟を起こすケースは極めて稀です。そして訴訟を起こしたとしても、通常の退職で会社側の損害賠償請求が認められることはほぼありません。裁判例の傾向として、退職の自由は法律で保障されており、適法な退職に対する損害賠償は認められないとされています。

損害賠償が認められた例外的なケースはありますか?

極めて例外的ですが、労働者側に著しい信義則違反があった場合(例:退職時に重要な顧客情報を持ち出して競合に流した、引き抜き目的で大量の同僚を退職させた等)には、損害賠償が認められる可能性があります。ただし、通常の退職でこのような事情が認められることはまずありません。

「辞めたら訴える」と言われたらどうすればいいですか?

冷静に対応しましょう。ほとんどの場合は脅しに過ぎません。退職届を提出して民法627条の2週間ルールに従って退職すれば、法的に問題ありません。不安な場合は弁護士や労働基準監督署に相談することをおすすめします。