職場で違法行為や不正を目にしたとき、「通報したいけど報復が怖い」「告発したら解雇されるのではないか」と悩む方は少なくありません。
日本には公益通報者保護法という法律があり、正当な内部告発を行った労働者を保護する仕組みが整備されています。この記事では、公益通報者保護法の仕組み、通報先の選び方、退職との関係について解説します。
なお、内部告発に関する具体的な対応は法的判断が必要です。行動を起こす前に弁護士に相談されることを強くおすすめします。
公益通報者保護法とは
公益通報者保護法は、2004年に制定され、2006年4月に施行された法律です。2022年6月には大幅な改正法が施行され、保護の範囲が拡大されました。
法律の目的
公益通報者保護法の目的は、国民の生命・身体・財産等の利益の保護に関わる法令違反行為について、通報した労働者が不利益を受けないよう保護することです。通報を促進することで、企業の違法行為の早期発見・是正を図ることも目的としています。
保護の対象者
2022年の改正により、保護の対象者は以下のように拡大されました。
- 労働者(正社員、パート、アルバイト、契約社員、派遣労働者を含む)
- 退職者(退職後1年以内の者)
- 役員(取締役、監査役等)
公益通報の対象となる違法行為
公益通報として保護されるのは、以下のような法律に違反する犯罪行為や、犯罪行為が発生するおそれのある事実です。
対象となる法律の例
労働関連:労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、男女雇用機会均等法
食品・安全:食品衛生法、食品表示法、医薬品医療機器等法
環境:大気汚染防止法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法
消費者保護:消費者契約法、特定商取引法
その他:刑法、独占禁止法、金融商品取引法 など約500の法律
注意:会社のモラルや社内ルールへの違反は、法律違反でなければ公益通報者保護法の対象にはなりません。保護されるのは「法律に違反する犯罪行為等」に関する通報です。
通報先と保護の要件
公益通報の通報先は3つあり、通報先によって保護の要件が異なります。
1号通報:事業者内部への通報
勤務先の企業に設置された通報窓口や、上司に対する通報です。
- 保護の要件:通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料する場合
- メリット:最もハードルが低い。社内で解決できる可能性がある
- デメリット:社内で握りつぶされるリスクがある
2号通報:行政機関への通報
その法律を所管する行政機関(労働基準監督署、保健所、消費者庁など)への通報です。
- 保護の要件:通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合
- メリット:行政による調査・是正措置が期待できる
- 適切な通報先:消費者庁のウェブサイトで通報先を検索できる
3号通報:報道機関等への通報
報道機関や消費者団体など、外部の第三者への通報です。
- 保護の要件:最も厳格。通報対象事実があると信ずるに足りる相当の理由があり、さらに内部通報では不利益を受けるおそれがある等の一定の事由が必要
- メリット:社会的な注目により是正が促進される場合がある
- リスク:要件を満たさないと保護されない可能性がある
重要:3号通報(外部への通報)は保護の要件が厳しいため、安易に行うとかえって不利益を受けるリスクがあります。まずは弁護士に相談し、どの通報先が適切かを判断してもらうことをおすすめします。
保護の内容——不利益取扱いの禁止
正当な公益通報を行った労働者に対して、会社が以下の不利益取扱いを行うことは禁止されています。
禁止される不利益取扱い
- 解雇:公益通報を理由とする解雇は無効
- 降格・減給:通報を理由に不利益な人事処分を行うことは禁止
- 不利益な配置転換:報復的な異動は禁止
- 退職の強要:通報したことを理由に退職を迫ることは禁止
- 派遣労働者の契約解除:派遣先が通報を理由に派遣契約を解除することは禁止
2022年改正での強化点
2022年の改正では、以下の点が強化されました。
- 内部通報体制の整備義務:従業員300人超の事業者に通報窓口の設置を義務化
- 退職者・役員の保護:保護対象を退職後1年以内の者と役員にも拡大
- 通報者情報の守秘義務:通報窓口の担当者に通報者を特定させる情報の守秘義務を課し、違反には刑事罰
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内部告発と退職の関係
内部告発を行うかどうかの判断と、退職の判断は密接に関わることがあります。
在職中に通報する場合
在職中であれば公益通報者保護法の保護を直接受けられます。ただし、実際には通報後に職場環境が悪化するケースもあり、精神的な負担は大きくなりがちです。
- 通報前に弁護士に相談し、保護の要件を満たしているか確認する
- 証拠を確保しておく(不正行為の証拠、通報した事実の記録)
- 通報後に不利益取扱いを受けた場合は、直ちに弁護士に相談する
退職後に通報する場合
2022年の改正により、退職後1年以内の通報も保護の対象になりました。在職中に通報しにくかった場合でも、退職後に通報するという選択肢があります。
- 退職後1年以内であれば保護の対象
- 在職中に得た証拠を活用できる(ただし、営業秘密の持ち出しには注意)
- 退職後は報復を受けるリスクが低くなる
通報が理由で退職に追い込まれた場合
内部告発をきっかけにパワハラや退職強要を受け、やむを得ず退職した場合は、不利益取扱いとして争える可能性があります。このような場合は弁護士に相談してください。
通報時の注意点
匿名での通報
匿名での通報も可能ですが、匿名の場合は通報者の特定が困難なため、調査が進みにくくなることがあります。また、公益通報者保護法の保護を受けるためには、通報者が特定できることが前提となる場合もあります。
証拠の取扱い
通報に際して証拠を提出する場合、会社の機密情報の取扱いには注意が必要です。不正行為の証拠として持ち出すことが正当化される場合もありますが、不正競争防止法との関係で問題になるケースもあります。弁護士に相談の上、適切な方法で証拠を取り扱いましょう。
相談先一覧
内部告発に関する相談先
弁護士:通報の適法性、保護の要件、不利益取扱いへの対応など。最も確実な相談先です
消費者庁の公益通報者保護制度相談ダイヤル:通報先の案内や制度に関する相談ができます。電話:03-3507-9262
労働基準監督署:労基法違反に関する通報を受け付けます
法テラス:弁護士費用の援助制度あり。電話:0570-078374
各行政機関の通報窓口:違法行為の内容に応じた所管の行政機関に通報できます
退職代行サービスの役割について:退職エクスプレスは退職届の作成・送達と電話通知を行うサービスです。内部告発に関する相談、行政機関への通報の代理、会社との交渉は行いません。内部告発をお考えの方は、まず弁護士にご相談ください。退職届の送達が必要な場合はお手伝いできます。
まとめ
- 公益通報者保護法により、正当な内部告発を行った労働者は不利益取扱いから保護される
- 通報先は社内・行政機関・外部の3段階。通報先によって保護の要件が異なる
- 2022年改正で退職後1年以内の通報も保護対象に
- 300人超の事業者には通報窓口の設置義務あり
- 通報前に弁護士に相談し、保護の要件と適切な通報方法を確認することが重要
なお、この記事は一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の法律相談ではありません。内部告発に関する具体的な判断は弁護士にご相談ください。
よくある質問
内部告発をしたら解雇されますか?
公益通報者保護法により、正当な公益通報を理由とする解雇は無効とされています。また、降格、減給、配置転換などの不利益取扱いも禁止されています。2022年の改正により、300人超の事業者には内部通報窓口の設置が義務付けられました。万が一不利益を受けた場合は弁護士に相談してください。
退職後でも内部告発はできますか?
はい。公益通報者保護法は退職後1年以内の通報も保護の対象としています(2022年改正で追加)。在職中に通報しにくかった場合でも、退職後に通報することが可能です。ただし、退職後の通報については保護の範囲が限定される場合もあるため、弁護士に相談することをおすすめします。
公益通報の対象となる違法行為はどのようなものですか?
刑法、食品衛生法、労働基準法、独占禁止法、環境関連法規など、約500の法律に違反する犯罪行為やそのおそれのある事実が対象です。具体的には、食品偽装、不正会計、環境汚染、労基法違反、詐欺行為などが含まれます。
