退職代行から連絡を受けた会社が「何ができて、何ができないのか」を正確に理解しておくことは重要です。感情的な対応は法的リスクを高めるだけであり、冷静に法的根拠を把握したうえで対応する必要があります。
この記事では、退職代行を利用された場合に会社側ができること・できないことを、法的根拠とともに整理します。
会社が「できないこと」一覧
まず、退職代行を利用された場合に会社側ができないことを確認しましょう。これらを行うと、法的リスクが生じます。
できないこと1:退職届の受理を拒否する
法的根拠
民法627条1項:「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」
民法97条1項:「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」
退職届は労働者の一方的な意思表示であり、会社の「受理」「承諾」は法律上不要です。退職届が会社に到達した時点で効力が発生し、到達から2週間後に雇用契約が終了します。「退職届を受理しない」と言っても、法的には意味がありません。
できないこと2:有給休暇の取得を拒否する
法的根拠
労働基準法39条:有給休暇は労働者の権利として付与される。
時季変更権の限界:使用者には時季変更権があるが、退職日が決まっている場合、変更先の日がないため、時季変更権は行使できない。
退職前の有給消化を拒否する会社がありますが、法的にはできません。退職日までの残り期間に有給休暇の残日数を当てることは、労働者の権利です。会社の時季変更権は「他の時季に変更する」権利ですが、退職日以降に変更先がないため、行使できません。
有給消化拒否は労働基準法違反:有給休暇を取得させないことは労働基準法39条違反であり、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法119条)。
できないこと3:退職自体を理由に損害賠償を請求する
「突然辞めたから損害が出た」「引き継ぎなしで辞めたから迷惑を被った」として損害賠償を請求するケースがありますが、認められることはほぼありません。
判例上、退職自体は正当な権利行使であるため、退職によって会社に損害が生じたとしても、それは会社が人員配置やリスク管理で対処すべき問題です。損害賠償が認められるのは、以下のような極めて例外的なケースに限られます。
- 会社に重大な損害を与える目的で、故意に無断退職した場合
- 退職に伴い、顧客情報や営業秘密を持ち出した場合(退職そのものではなく、持ち出し行為が問題)
- 契約期間中の一方的な退職で、代替人員の確保に要した費用が明確な場合(これも認められるケースは稀)
できないこと4:引き継ぎを強制する
引き継ぎは円満退職のために望ましいですが、法律上の義務ではありません。引き継ぎを行わないことを理由に、退職を拒否したり、最終給与を減額したりすることはできません。
できないこと5:退職代行の利用を理由に懲戒処分をする
退職代行を利用したこと自体は、就業規則違反にも法律違反にも当たりません。退職代行の利用を理由に懲戒解雇や減給などの処分を行うことは、権利の濫用であり無効です(労働契約法15条・16条)。
できないこと6:本人に直接連絡して退職を撤回させる
退職代行を利用している社員に直接連絡をとり、退職を撤回させようとすることは推奨されません。退職代行を利用している時点で、本人は直接のやり取りを避けたいと考えています。直接連絡は退職妨害やハラスメントと見なされるリスクがあります。
会社が「できること」一覧
一方で、退職代行を利用された場合でも、会社側にも正当に行使できる権利があります。
できること1:本人確認を求める
退職届が本人の意思に基づくものであることを確認するために、退職代行を通じて本人確認を行うことは正当な対応です。退職届の署名・捺印の確認、本人確認書類の提示を求めることができます。
できること2:貸与品の返却を求める
会社が貸与した物品(PC、携帯電話、社員証、制服、鍵など)の返却を求めることは当然の権利です。返却方法は退職代行を通じて調整しましょう。多くの場合、郵送での返却が一般的です。
できること3:秘密保持義務の確認
入社時に秘密保持契約(NDA)を締結している場合、退職後も秘密保持義務が継続することを確認・念押しすることができます。ただし、秘密保持義務を盾にして退職を妨害することはできません。
できること4:退職日の調整を提案する
退職届の到達日から2週間後が法定の退職日ですが、業務上の都合を考慮して退職日の調整を「提案」することはできます。ただし、あくまで提案であり、社員がこれに応じる義務はありません。退職代行を通じて提案し、社員の同意が得られた場合のみ調整が可能です。
できること5:離職理由の正確な記載
離職票の離職理由は正確に記載する義務があります。自己都合退職であれば「自己都合」と記載します。退職代行を使ったことを理由に離職理由を不利に書き換えることは違法です。
退職エクスプレスは適切に退職届を送達します
退職エクスプレスでは、メール・電話通知・郵送の3手段で退職届を送達します。パート・アルバイト9,800円、正社員・契約社員12,800円。全額返金保証付き。
できること・できないことの一覧表
| 行動 | 可否 | 法的根拠 |
|---|---|---|
| 退職届の受理拒否 | できない | 民法627条・97条 |
| 有給消化の拒否 | できない | 労働基準法39条 |
| 退職を理由に損害賠償請求 | 原則できない | 判例法理 |
| 引き継ぎの強制 | できない | 法的義務なし |
| 退職代行利用を理由に懲戒 | できない | 労働契約法15条・16条 |
| 本人に直接連絡して退職撤回 | 避けるべき | 退職妨害・ハラスメントのリスク |
| 本人確認の実施 | できる | 正当な手続き |
| 貸与品の返却要求 | できる | 所有権に基づく請求 |
| 秘密保持義務の確認 | できる | NDA・就業規則 |
| 退職日の調整提案 | 提案は可(強制不可) | 合意による変更 |
よくある会社側の誤解
誤解1:「就業規則で退職届の提出は1ヶ月前と定めているから、2週間では辞めさせない」
就業規則で「退職届は1ヶ月前に提出」と定めている会社は多いですが、民法627条は強行規定と解されており、就業規則よりも法律が優先されます。退職届の到達から2週間で退職は成立します。
誤解2:「退職代行を通じた退職届は正式なものとして認めない」
退職届の法的効力は、誰が届けたかではなく、本人の意思に基づくものであるかどうかで決まります。退職代行が届けた退職届であっても、本人の署名・捺印があれば有効です。
誤解3:「退職代行は非弁行為だから違法」
退職届の送達代行は、法律事務の代理ではなく、使者としての送達行為であるため、弁護士法72条に抵触しません。ただし、退職条件の交渉や法的手続きの代理は、弁護士または労働組合でなければ行えません。
会社側の最善の対応:退職代行から連絡が来たら、感情的にならず、法的根拠に基づいて淡々と手続きを進めることが最善策です。退職届の受領、有給消化の承認、必要書類の発行を速やかに行うことで、トラブルを最小限に抑えられます。
よくある質問
退職代行からの退職届を拒否できますか?
拒否できません。退職届は労働者の一方的な意思表示であり、会社に到達した時点で効力が発生します(民法97条・627条)。「代行業者を通じた退職届は受け付けない」という就業規則があっても、法的には無効です。
退職代行を使った社員に損害賠償を請求できますか?
原則として認められません。退職は労働者の正当な権利であり、退職自体を理由とする損害賠償は認められないのが判例の立場です。ただし、故意に会社に損害を与える目的で退職した場合など、極めて例外的なケースでは認められる可能性があります。
退職代行を使った社員に引き継ぎを強制できますか?
法的に引き継ぎを強制することはできません。引き継ぎは信義則上の義務とされることもありますが、引き継ぎをしないことを理由に退職を拒否したり、損害賠償を請求したりすることは困難です。
